作家と作品について:
  佐々木健治は1935年秋田県秋田市生まれ、現在宮城県仙台市在住の作家です。佐々木が美術を志し、格闘を重ねてきた時代は、まさに社会の混乱と時期を同じくしていました。戦前の常識が覆り、それまで正しいとされていた拠り所がもろくも崩れ去り、若者たちは社会に頼ることをあきらめ、自分たちで世界観を構築してゆかなければならないという切実な思いに突き動かされていたのです。政治、経済、文化、芸術あらゆる方面で若者による実験的な表現が試みられ、多くの成果と落胆が積み重ねられてゆきました。
  美術表現を追求した佐々木は価値観の再構築を目指し、
その方法を絵画制作によって試してゆきます。惰性を嫌い、一定の成果を得られた試みは中止され、全く違う表現方法で新たな可能性が模索されます。何十年にも渡るそのような試みによって佐々木が目指したものは、まず自分自身の世界観をきちんと構築できる「自らの拠り所」を発見することでした。しかし現在も変遷を繰り返す佐々木にはいまだに「拠り所」は見出せていないようです。
  私たちは常識という名の拠り所を盲目的に信じています。しかしその拠り所は本当に頼っても良いもの、信頼できる拠り所なのでしょうか。この作品には線が描かれています。方眼を形作りながら整然と並んだ線は、どこかから少しずつ狂い始め、混乱し崩壊してゆきます。まるでこの社会を象徴しているようです。一本の線に一人の人生があり、お互いに関係しながら何かの秩序に従って整列しています。実はこの線は描かれた線ではなく塗り残された線なのです。線を見ればそれが実体だと思い込んでしまいますが、実際に描かれているのは背景だと思っている正方形の方なのです。非常識でもそれが真実なのです。