作家と作品について・「絵画の二面性」について:
  ササキツトムは1968年秋田県生まれ、現在宮城県仙台市在住の作家です。1995年に上越教育大学大学院修士課程芸術系美術を修了し、その後は仙台を拠点に作品を制作・発表しています。
  ササキが生み出す作品はもちろん絵画なのですが、一般的な見方をしてしまうと、「わけの分からない抽象画」で終わってしまうかもしれません。作家本人が語っているように、この作品で作家が追求しようとしたことは「何かの形を描くこと」ではなく、絵画の持っている二面性を利用して、絵画の可能性を探ることに他なりません。
  一般に絵画を見る場合、多くの人がそこに描かれているであろうモチーフの形を探します。たとえば人物とか風景のように自分が知っている形を見ようとするのです。しかし仮にそのようなものが描かれていても、実際に人物や風景がそこに存在するわけではありません。私たちは絵画を通して、自分が経験的に知っている感覚を組み合わせ、幻覚(イリュージョン)を見ているのです。しかし一方で絵画は「平らな画面に絵具が塗られた物」「物体」でもあるのです。目の前に真っ赤に塗られたベニヤ板が落ちていれば、私たちは通常、「赤い板」という風にそれを「物」として認識することでしょう。
  絵画が持つ表面的な物質性と心理学的な幻覚性(非物質性)の関係を追求する姿勢は現代美術の一つの大きな命題にもなっており、絵画を鑑賞する際には意識しておく必要があります。

作家の言葉:ササキ ツトム
  「Inside and Outside」というタイトルは、画面よりも向こう側に見える奥行と、キャンバスや絵具やメディウムなどの画面そのものを構成する現実の物質性に対して付けた言葉である。このことは、透過性と鏡面状の相反する二面性を備える窓ガラスのあり方に似ている。通常はガラスの透過性によって向こう側にある風景を観ているが、光の状態によっては鏡面となって焦点はガラス面そのものに移ってしまうことがある。もちろん絵画の場合の「向こう側」とは描かれた空間のことで、現実には存在しない幻影である。そして焦点が絵画の表面自体に向けられたとき、絵画が一枚の絵具の塗られた板に転じるのである。私が絵画に対して特に惹かれるのはこの幻影と現実の相反する二面性についてである。
  絵画がほかでもない絵画としてあるために、絵画自体を対象化してその物質的な構造である現実の画面そのものを露出させる。それは逆に、絵画の空間を強調し、絵画が幻影を持つことに与する。絵画の幻影とは絵画平面の物質的あり方に依存しているともいえる。物質的な平面と、幻影をつくり出す仮想上の平面。この二つの絵画平面は一つでありながら、常にその分裂的な緊張にさらされている。絵画のアイデンティティーとは、常に内面を持たない無であるかのように、物質や現実の空間がなければ存在し得ない。しかも、絵画の側からみて外側に外の物質的な現実や視覚的な記憶を定立しながら存在している。
(ササキ ツトム)

※N.E.blood 21 Vol.10 SASAKI TSUTOMU
パンフレットから抜粋