作品について:
  源氏と平氏の戦いを独特の感覚で表現し、シルクスクリーン(孔版)作品としてシリーズ化したもの。緻密で装飾的な画面からは武田の表現力の高さが感じられる。

作家について〜漫画の魅力〜:
  武田秀雄は1948年生まれの作家です。1973年多摩美大学大学院彫刻科を修了した武田は、76年第22回文芸春秋漫画賞を受賞、1993年には大英博物館で個展が企画されるなど、国際的にも非常に高い評価を得ています。武田作品は北斎漫画に通ずるようなモノクロの線で描かれたものから、きらびやかな浮世絵を思わせる緻密な色彩表現を施されたものまで多種多様です。きわめて日本的なイメージを持っていますが、同時に西洋の漫画やイラストに見られるような軽妙なタッチも兼ね備えています。
  武田は自身を漫画家と称しています。紛れもなく武田は優れた漫画家なのですが、あまりにも普通に用いられるこの「漫画」という言葉が誰にでも共通の意味をもつ言葉とは言えません。おそらく現代人の多くは「漫画」という言葉から雑誌などの「マンガ」や「コミック」を連想するのではないでしょうか。また「漫画家」という肩書きからはそういった意味での漫画家をイメージし、武田や、武田の作品とはなかなか結びついてこないのでは。そこであらためて漫画の意味を整理してみることにします。


  そもそも漫画の「漫」という文字には「気の向くままに、何と言うことな
く」といったようなラフな意味があります。つまり漫画とは気の向くまま、感じたままに描かれた絵のことで、多くの場合絵画にはそれなりの根幹となるような作者のコンセプトがあり、文章に例えるなら小説のような構造を持っていますが、漫画は日記的な要素や、ショートエッセイのような身の回りの出来事や、フッと思っや内容の滑稽さ、風刺性やウィットに富んだ表現などによって裏付けられているのです。世界的に高い評価を得ている北斎漫画はその代表と言えます。無駄のない的確な描線で描かれる日常のひとこまと、その背後に隠された知的な笑い。武田の作品はまさにそういった意味で非常に優れた漫画と言えます。現在マンガと言えば、いくつもの絵を連続させ、文字、台詞などを併用し、物語を表現したものが主流です。構造的には芝居などと同じ様な複合メディアとして位置づけられていると言っても過言ではないでしょう。このような構造は言葉の上で「まんが」と表現されていますが、様式としては絵巻物や絵物語などに近いものであり、実は「漫画」という言葉の本来の意味からすれば別のジャンルの表現なのです。現在多くのマンガがさらにその発展型としてアニメーション化されていますが、絵巻物の進化の形としてはそれが理想的でしょう。
  武田の作品は一枚の絵であり、連続する絵巻物とは違います。しかしそこからは画面に描かれていない前後のストーリーや、ぶつぶつとした台詞が鑑賞者のセンスによって自在に創造できます。難しすぎず、それでいて知的であり、かつ皮肉たっぷりな武田の表現は娯楽と教養を兼ね備えた「感性のご馳走」と言えます。日本ではまだまだ抵抗を示されるかもしれませんが、ブラックユーモアやエロティシズムといった社会が隠蔽しがちな要素をもふんだんに利用してゆくことが、社会の裏表を描き出す役割を担う漫画家ならではの職人技なのです。