作家と作品について:
  桜井孝一は1942年、岩手県東磐井郡室根村生まれ、現在宮城県気仙沼市在住の写真家です。
休日になるとワゴン車に撮影機材を積み込み、車中に宿泊しながら写真を撮りま
す。桜井は何十年もの間このような生活を続けているといいます。撮影された何万枚もの写真には、人間、動物、植物、風景など、その時々の桜井の視点によって切り取られた様々な世界が留められています。
  かつて人々は過ぎ去ってしまう時間を固定し手に入れる方法として絵画を用いていました。ところが写真技術の発明、普及は画家以外には不可能だったこの行為を誰にでも手軽に行えるようにしました。また写真機の進歩は肉眼では捉えられない現象を写し出すなど、写真ならではの効果も生み、人々にとって魅力的な表現手段となりました。しかし手軽になったとはいえ、写真機の進歩だけでは芸術性まで成立させることはできません。そこには写真家のイメージが必要なのです。
  私たちは写真を見る際に、その瞬間そこに撮影者が存在し、その被写体と向き合っていたのだということを忘れがちです。悲惨な戦場の写真であれば、写真家もまたその場で戦争を体験しています。雄大な風景の写真であれば、その風景の中に写真家は一人立っている、つまり体感しているのです。
  写真は誰にでも撮れます。しかし魅力的な写真であるためには二度とない瞬間を手に入れなければなりません。絵画なら理想のイメージによって作品はある程度自由に創造できます。しかし現実を切り取っている写真にはそのような自由はありません。思い通りの写真を撮るためには自らが理想とするイメージを持ってその瞬間が訪れるのをひたすら待ち続けるしかないのです。そうすることで留まることなく蓄積されてゆく時間の中の一瞬が写真家との唯一の関係によって切り取られ一枚の写真になるのです。