作家と作品について:
  安藤栄作は1961年東京都生まれの作家です。東京芸術大学彫刻科を卒業し、現在は福島県いわき市の山間に暮らしています。   三方の板壁と雨をしのぐ屋根だけの安藤の作業場は、屋外との境界も曖昧になるほどのおびただしい木屑に床を覆われ、作業場から溢れ出た木屑は、少しずつ土に還ってゆきます。周辺の山並みと空間を共有しながら、手斧1本で木材を叩き、彫刻作品が生み出されてゆきます。この作家の周辺では実にゆっくりと時間が積み重ねられています。   山間で暮らしつつも波乗りを日課としている安藤は、山と海の両方から地球を感じ、その中に身をゆだねるように日々暮らしています。打ち寄せる波が海岸線を削るように、手斧を繰り返し振り下ろす行為から生まれてくる形が安藤の作品となってゆきます。
作家の言葉:安藤栄作「サーフ アンド スカルプチュアー」
  朝、長男がタイマーでセットした馬鹿でかい音量のブルーススプリングスティーンで目が覚める。なんだか知らないが彼がセットするコンポの音量は異常に大きい。その上5時半なんて、これまた馬鹿みたいに早い時間にかかったりする。「あーなんで学校あるんだろう。」なんて言いながら眠そうに朝食を食べる子供達を眺めながら緑茶を一杯飲む。下の子を小学校に送り出し、燃えるゴミやリサイクルプラを出しながら上の子を車で中学校まで送る。我が家は山間部なので中学校は車で送迎しなければならない。時間をかけてテクテク歩いて行ってもらっても構わないのだが、そうなると朝4時半から大音量が鳴り響くことになる。だからそっとしてある。8時頃カミさんと朝食を取る。胚芽米にみそ汁、納豆と佃煮なんてたわいもない食事だが、うまい。布団や洗濯物を手早く干して、車のリアハッチを開ける。サーフボードとウェットスーツ、それにポリタン2杯のお湯を積み込む。カミさんは日焼け止めクリームを塗っている。   家を出発し山を下ると水平線が姿を現す。「煙突の煙が南に流れている、オフショアだな。」なんて話しながら海に車を走らせる。海岸に着くといつものおばちゃんに「おはよう」の挨拶。ウェットスーツに着替えボードにワックスを塗る。カミさんも足ひれとボディボードを抱えている。階段を上り堤防の上に立つ。「アウトサイドで頭位の波、厚めだけどグッフィーにきれいに巻いている、風が変わる前に入ろう。」そんなことを言いながら海岸に降りて行く。   コバルトブルーの海原の向うから幾筋ものうねりがやって来る。真青な空に時たま雲が現れ、太陽をさえぎりながら飛んで行く。光の柱が山並みから市街地を移動し大海原へと降注ぐ。もう何百回と見ている風景なのに相変わらず見とれてしまう。そんな神の懐へ漕ぎ出して行く。サーフィンはただ波に乗るだけのスポーツではない。海があり空があり雲が流れ、光と風を敏感に感じ、月の満ち欠けや気象もイメージしなければならない。この星の波動にダイレクトに身を置いて自分は何者なのかを瞑想する瞬間だ。   海から上がり晩の買物をして家に着く。パンとコーヒーの昼食を取り、アトリエに入る。作りかけの幾つもの彫刻と向き合う。「あーそうか。」なんて突然つぶやいてオノを振り始める。やっぱり彫刻は楽しい。細胞と魂が喜んで、幸せで背中がポカポカ温かくなる。ガツガツ手を入れたり、じっくり眺めたり、山をボーっと見つめたり、裏の畑をうろうろ歩いて2、3本雑草を抜いたりしながら作品と向き合っていると、「ただいまーおなかすいたー。」と子供が帰って来る。晩飯は牛丼だ。
(あんどう えいさく)

※N.E.blood 21 Vol.6 ANDO EISAKUパンフレットから