作家と作品について:
  ヴィクトル・ナガヌマは1960年、アルゼンチン共和国ブエノスアイレス生まれ、現在宮城県仙台市在住の作家です。
  かつて多くの日本人が新天地を目指し南米大陸へと移住しました。ヴィクトルの両親も宮城県からアルゼンチンへと移住した日系移民でした。
  1816年までスペインに統治されていたアルゼンチンはヨーロッパからの移民が大半を占め、南アメリカにあるヨーロッパと表現されるほどヨーロッパ文化の影響が大きい国です。日系二世としてアルゼンチンで生まれたヴィクトルはアルゼンチン国立美術大学を卒業後、1987年に留学生として宮城県にやってきました。そこでヴィクトルはルーツであるはずの日本の現状に大きな違和感を覚えます。人種的には完全な日本人であるヴィクトルですが、文化的には日本人ではなかったのです。
  日本で暮らし始めたヴィクトルはただ捨てられている梱包材の多さに驚かされました。特にベニヤ板が粗末に扱われていることには大きな不快感すら覚えたといいます。日本人が粗末に扱っているベニヤ板の原料は、南米大陸の自然を破壊することで生み出されていたからです。
  日本は多くの木材を世界中から輸入しています。
  それらは加工され多くがベニヤ板や紙の原料になります。地球温暖化の原因である二酸化炭素増大の原因は南米大陸での無秩序な森林伐採にあるとも言われていますが、その森林伐採を推し進めてきたのが他でもない日本なのです。自分自身のルーツであり、人種的には日本人であるヴィクトルの憤りは決して小さいものではなかったはずです。
  ヴィクトルは日本人によって粗末に扱われ、破棄されてしまう「物の命」を、かつての日本人が持っていた自然に対する畏敬の念や、それに基づく素材の扱いを学びながら、美術作品にすることで復活させようと考えたのです。非常にシンプルに整理された表現は、能などに代表される日本文化の捨象性や形(かた)を大切にする考えと共通する美意識によって生み出されていると考えられます。そのようなヴィクトルの作品は私たちに「かつての日本」を再発見させてくれます。