作家と作品について:
  皆川嘉博は1968年秋田県生まれ、東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻彫刻研究領域を満期退学し、現在、秋田県秋田市在住の作家です。
  私たちは均質化、平坦化する現代社会の中で暮らしています。全国どこへ行っても同じマークのコンビニや大型スーパーの看板があり、テレビではまったく同じ番組を見ることができます。学校でも一定の内容が標準語で書かれた教科書によって学習されています。確かに私たちは日本人であり、青森も沖縄も日本であることは事実です。しかしだからといって日本全国まったく同じ文化を共有しているわけではありません。言葉のちがいは最も分かりやすい例でしょう。津軽弁と沖縄弁で会話が成立するでしょうか?
  私たちは方言を持っています。方言は、長い時間をかけて分化、定着し個別化したそれぞれの地方文化を象徴しています。東北で暮らす私たちも、やはり古くからの地方文化をもっていますが、現在それらを継承してゆくことが難しくなりつつあります。
  皆川は秋田で生まれ育ち、現在も秋田で暮らしています。自分自身のルーツ、DNAがいったいどこから来て、どのように繋がれてきたものなのか!
  皆川は自分自身の内に備わっているはずの土着性、地方性を籾殻焼きという方法を通して土と関わりながら「呼び覚ます行為」として作品を作り続けています。
テラコッタ・籾殻焼きについて:
  テラコッタ(terracotta)とは、原語では焼いた土、赤土焼、素焼きの意味で、石器時代から平行して作られていたと考えられている非常に原始的な塑像の方法です。鉄分を多く含む粘土を使い造形し、乾燥させた後、800度〜1000度cの低温で焼成します。古代から壺瓦、レンガなどがこの方法で作られてきました。また日本のハニワなどもこの方法で作られています。
  皆川の作品もテラコッタ技法で作られていますが、粘土で造形した作品をそのまま焼いているのではなく、できあがった塑像から石膏の雌型をとり、そこから焼成するための粘土で雄型を取り直し焼成しています。一般的には窯で焼成されますが、皆川は農閑期の自宅田んぼを使って野焼きをしています。籾殻焼きは稲作を主にする中国や東南アジアなどに伝わる方法で、脱穀により大量に出る籾殻を利用して素焼きを行います。   古代から伝わるこの方法を用いることで自分自身の中にあるはずの記憶・自分のルーツを呼び覚まそうとするこの方法は、作家にとって単なる造形的な手法を越えた深い意味を持っています。